きちんとわかる時計遺伝子

●産業技術総合研究所 著 ●定価(本体1500円+税)  

それは、すべての細胞で発現している!



生物が約24時間のリズムを刻むことは、経験的に知られてきた。
それがいまや、実際に遺伝子として存在することが判明した。
睡眠、肥満、がん、心筋梗塞なども
時刻・時間が関係することがわかり、
それに合わせた投薬法や新薬の研究が進む。



産業技術総合研究所 著   著者紹介
きちんとわかる時計遺伝子
  はじめに
     目次
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生物が約24時間のリズムを刻むことは、経験的に知られてきた。
それがいまや、実際に遺伝子として存在することが判明した。
睡眠、肥満、がん、心筋梗塞なども
時刻・時間が関係することがわかり、
それに合わせた投薬法や新薬の研究が進む。


  • 四六判  並製
  • 270ページ
  • 定価(本体1500円+税)

  • ■著者紹介

    第一部
    石田直理雄(いしだ・のりお)

    第二部
    第一章
    花井修次(はない・しゅうじ)

    第二章
    大西芳秋(おおにし・よしあき)

    第三章
    大石勝隆(おおいし・かつたか)

    第四章
    宮崎歴(みやざき・こよみ)

    第五章
    大戸茂弘(おおど・しげひろ)

    第六章
    冨田辰之介(とみた・たつのすけ)

    第七章
    太田英伸(おおた・ひでのぶ)

    第八章
    裏出良博(うらで・よしひろ

    第九章
    坂井貴臣(さかい・たかおみ)

    第一〇章
    小山時隆(おやま・ときたか)


    ■目次




    はじめに 9 第一部 体内時計から時計遺伝子へ 生物時計と生命 14 時計遺伝子 23 注目される研究テーマ 31 産総研と日本の時計遺伝子研究 40 時計遺伝子研究の夢 49 第二部 時計遺伝子研究の最前線 第一章 体内時計研究のモデル生物と進化 54 体内時計研究のモデル生物/@飼育しやすい/A遺伝子操作ができる Bゲノム情報がある/優れたモデル生物ショウジョウバエ 概日行動リズム遺伝子の発見/他の生物での時計遺伝子の発見  体内時計の進化 66 全生物に共通の時計遺伝子はあるか  それでも時計は動いている 71 一日周期のリン酸化リズム/概日振動しているホヤの遺伝子 新たな時計遺伝子の探索 第二章 時計遺伝子と環境 75 サーカディアン・リズムと環境/時計遺伝子/転写リズムの形成 時計遺伝子の環境適応/遺伝子の転写調節機構――基本メカニズム 調節メカニズム/エピジェネティクス/DNAメチル化 DNAトポロジー/クロマチン構造変化とヒストンコード Per2 遺伝子におけるE4BP4による転写調節 Bmal1 遺伝子の転写機構/これからの展望 第三章 生活習慣病と時計遺伝子 91  中枢時計と末梢時計 91 哺乳類の中枢時計と末梢時計/ショウジョウバエと哺乳類の末梢時計 哺乳類では、中枢時計が末梢時計を支配している 中枢時計は、どのように末梢時計を制御するのか 液性因子の実体は?――メラトニンではない/液性因子はインスリンでもない 多数の因子が複合して、末梢時計を支配しているらしい ストレスホルモンによる末梢時計の制御  時計遺伝子と肥満 105 Clock遺伝子と脂質代謝/Clock遺伝子と肥満  肥満や糖尿病と血栓傾向 111 血液の凝固線溶系と概日リズム/Clock遺伝子による血液線溶系の概日制御 糖尿病・肥満と線溶系の概日リズム 糖尿病・肥満に起因する血栓傾向とClock遺伝子  高脂血症治療薬と体内時計 122 末梢時計の位相を早めるベザフィブラート/睡眠障害の新規治療薬としての可能性 第四章 がんと時計遺伝子 129 がんは最大の死因/がんと細胞周期/がんを防ぐ体内の仕組み 体内時計とがんのなりやすさ/体内時計遺伝子Per2が発がんに結びつく Cryは発がんに結びつかない/五段階の細胞周期とチェックポイント 時計遺伝子は細胞周期を制御する/成長因子の日周変動とがんの増殖 体内時計機構を利用したがん治療/時間治療を実現する技術 第五章 薬を飲む時間と体内時計 143 時間薬理学の登場/特定の時間帯に起こりやすい疾患 起こりやすい時間帯に投薬する/投薬時刻によって効果が異なる薬 生体リズムが考慮されていない現在のTDM 生体リズム障害と、それを調整する薬/投薬方法の具体例 体内時計の分子機構とそれに関与する疾患の仕組み 日周リズムを利用した薬/期待される時間治療 生体リズムにマッチした至適投薬設計 第六章 メラトニンと時計遺伝子 157 メラトニンの単離/生合成経路の決定 内因性メラトニン合成の日周リズム/日周リズムのメカニズム 内因性メラトニンの定量/メラトニン受容体 メラトニンのさまざまな作用  メラトニンと時計遺伝子を結ぶ新しいモデル 171 抹消時計に作用するメラトニン/下垂体ホルモン 隆起部におけるPer1 の発現抑制/四種類のマウス メラトニンはA2bの脱感受性を解除する 新しいモデル――隆起部に特異的なメラトニンを介したリズム 一つの分子の作用に帰する困難さ 第七章 赤ちゃんの眠りを整える保育環境 183 赤ちゃんの生物時計と睡眠/赤ちゃんはいつから光を感じるか 赤ちゃんの発達を促す明暗環境とサーカディアン・リズム 授乳も赤ちゃんの眠りをサポートする 赤ちゃんの眠りを促すために 第八章 睡眠物質からねむりを考える 193 「ねむり」のふしぎ/「眠気がたまる」とは 断眠中に蓄積する睡眠物質/プロスタグランジンD2 脳波による睡眠の測定/プロスタグランジンD2による睡眠誘発機構 睡眠中枢と覚醒中枢/カフェインの覚醒効果とアデノシンA2A受容体 生理的睡眠におけるプロスタグランジンD2・アデノシン系の関与 第九章 時計遺伝子と記憶 203 記憶の謎/記憶のメカニズムを求めて キイロショウジョウバエと遺伝子/記憶遺伝子の探索 時計遺伝子と長期記憶/匂いの記憶と失恋の記憶――二つの測定法 per と長期記憶/記憶のリズム 賢いハエを作る/神経活動と長期記憶 今後の展望 第一〇章 シアノバクテリアの概日時計 223 シアノバクテリアの概日リズムの発見からkai 時計遺伝子の発見まで Kai タンパク質の特徴/KaiCの自己転写制御 Kaiタンパク質の複合体形成とKaiC自己リン酸化・脱リン酸化 概日時計の基本性質の再考/転写翻訳制御から切り離された概日時計 概日時計を試験管内で再構成することができた! 試験管内概日時計からわかってきたこと―― @安定なリン酸化サイクルを実現する仕組み A位相の異なる時計が同期する仕組みについて B周期決定機構と環境温度に対する時計の安定性について 細胞内の概日時計システム/今後の課題 著者紹介 251 参考文献 268


    まえがき



    はじめに  「体内時計」という言葉は、テレビや新聞でもたびたび取り上げられるよう
    になった。その背景には一九九七年以来のヒト時計遺伝子の発見があり、最近
    ではこれが睡眠や肥満まで影響を与えることが明らかになったことなどがある。
     本書は、この体内時計分野において、遺伝子から行動に至るまで一貫して研
    究に従事してきた産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門 生物時計研究グル
    ープのメンバーを中心に、外部の第一線の研究者の応援も得て、科学的に誤り
    のない解説書として一般読者向けに書き下ろしたものである。
     時計がなく、外界と遮断された部屋で過ごしても、人間は覚醒と睡眠をほぼ
    二四時間周期で繰り返す。二四時間周期をもつ現象はこれに限らず、また体温
    や血圧は午後四時ごろに最も高くなり、脳卒中は朝に多いというような、病気
    の起こりやすい時刻も知られている。このような約二四時間を周期とする生命
    活動の周期的変化(リズム)をサーカディアン(概日)リズムと呼ぶ。
     生物は、このリズムを司る「時計」を体内にもっている。外界の環境変化に
    適応するために、生物には一定の周期で振動する自立振動系が内在するのであ
    る。この時計が生物時計と呼ばれるものである。地球の自転による昼夜の変化
    のもとで長い進化の過程をたどるうちに、生物時計は遺伝情報として組み込ま
    れたものであることが、最近の研究から明らかになってきた。
     哺乳類の脳の中、具体的には視交叉上核という限られた領域に、一万六〇〇
    〇個もの神経細胞があり、そこが、体全体のリズムを作る親時計の役目を果た
    している。哺乳類の身体の中には、この親時計に支配された子時計(末梢時計)
    があり、これらの時計はあたかもオーケストラの指揮者と演奏者のように、連携
    をとりながら一日二四時間のリズムを形成しているのである。
     このリズムが壊れると精神的にも身体的にも不調をきたす「リズム異常症」
    が引き起こされる。躁鬱病や不登校など、深刻な社会問題にまでつながるケー
    スもこのリズム異常症との関係から研究が進められている。
     一方で、疾患の発症時間とリズムとの相関がわかれば、直接的な形で恩恵が
    もたらされるはずである。リズム異常が引き起こす生理現象を分子レベルで調
    べていけば、新薬の開発や新しい投薬法にもつながっていく。血圧などの治療
    も、投薬のタイミングを調節することで、より高い効果が得られる可能がある。
     このような応用面での展開は、現代病ともいえる「シフトワーク」や「時差
    ぼけ」、「昼夜逆転による引きこもり」などの社会問題の解決につながる可能
    性が高い。

     生物時計の研究は、現在は主として、分子レベル(遺伝子レベル)の分野と、
    臨床応用を含めた分野で展開されている。そのいわばきっかけとなった
    のが一九九七年の発見で、それまでショウジョウバエで明らかにされていた時
    計遺伝子が、哺乳動物でも見つかったからである。この発見は、産総研をはじ
    めとする世界の三つの研究グループによってなされた。
     一九九八年、産総研は、視交叉上核だけでなく、心臓や肺、肝臓、腎臓、脾
    臓、さらには末梢白血球にいたる多くの組織で、日周リズムが発現しているこ
    とを発見した。同時に、中枢時計が何らかの機構によって末梢時計を支配して
    いる可能性があることを示した。
     二〇〇三年には、時計遺伝子 Clock の変異マウスを使った網羅的な遺伝子発
    現解析によって、肝臓で日周発現する遺伝子のうち、一〇〇を超える遺伝子の
    発現リズムが、CLOCKの変異によって影響を受けていることを発見した。また、
    二〇〇五年には、脂肪酸代謝で中心的な役割を担っているPPAR遺伝子の日周発現
    が、CLOCKによって直接制御されていることを証明した。このような研究は、
    「臓器にある末梢時計はいかなる役目を担っているのか」という疑問に迫る成
    果である。
     同じく二〇〇五年には、ストレスホルモンが肝臓での遺伝子の日周発現に果
    たす役割を調べた。その結果、すべてが時計遺伝子によって直接コントロール
    されているわけではなく、約半数の遺伝子は、ストレスホルモンによってリズ
    ムが作られていることを明らかにした。このストレスホルモン自体は時計遺伝
    子の制御を受けているので、いわば間接的な形で(ホルモン分泌の調節などによ
    って)リズムが作られているらしい。
     体内時計は不眠や時差ボケだけにとどまらず、鬱病やガンや生活習慣病との
    関連性が指摘されている。産総研では、糖尿病に伴う血栓傾向や肥満に時計遺
    伝子が関与している可能性も明らかにしている。
     時計遺伝子の研究は全世界で幅広く展開されており、その中で、これまでも、
    また今後も、産総研は重要な役割を担っていきたいと願っている。
     本書に紹介したのはそれでも「時計遺伝子最前線」の一部でしかないが、こ
    れらを通じて、続々と成果が上がるこの研究分野の「いま」を感じ取っていた
    だければ幸いである。

    二〇〇七年一二月

                                   著者 

     




















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