新化学読本――化ける、変わるを学ぶ

●山崎幹夫著 ●定価(本体1600円+税)  

化学はヒトをバカしたか?



化学はヒトをバカした、ものの見方を変えてきた。
ひと昔前まで、花が咲いたり実がなったりする生物の営みを
化学の言葉で理解するのは、不可能と見られていた。
しかし有機化学の進歩は、それらを物質のレベルで明確にとらえ、
美しく語れるようになった。


山崎幹夫著   著者紹介
新化学読本   まえがき
     目次
     あとがきにかえて
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化学はヒトをバカしたか?
化学はヒトをバカした、ものの見方を変えてきた。
ひと昔前まで、花が咲いたり実がなったりする生物の営みを
化学の言葉で理解するのは、不可能と見られていた。
しかし有機化学の進歩は、それらを物質のレベルで明確にとらえ、
美しく語れるようになった。


  • 四六判  並製
  • 294ページ
  • 定価(本体1600円+税)

  • ■著者紹介

    著者 著者紹介 山崎幹夫(やまざき・みきお)
    新潟薬科大学学長。
    1931年東京生まれ。東京大学大学院化学系研究科博士課程修了、薬学博士。
    千葉大学教授、薬学部長などを歴任し、1997年退官。
    2004年4月より現職。
    『毒の話』『薬の話』(ともに中公新書)など著書多数。


    ■目次




    『新化学読本』目次

    まえがき……5

    第1章 地球誕生から生命へ――メタン……11

    第2章 果実を成熟させる物質――エチレン……23

    第3章 生命の水――アルコール……33

    第4章 イスラエルを建国した化合物――アセトン……43

    第5章 手術の道をひらいた麻酔薬――エーテル……51

    第6章 体内クレブス回路の燃料――酢酸……61

    第7章 左右で性質が違う光学異性体――酒石酸……73

    第8章 炎症の原因物質――プロスタグランジン……85

    第9章 建築家の夢が扉をあけた芳香族――ベンゼン……95

    第10章 柳の樹皮から生まれた解熱剤――アスピリン……107

    第11章 甘味の王者――ショ糖……119

    第12章 酒造りの嫌われ者――火落酸(メバロン酸)……131

    第13章 日本人が見つけた旨味――グルタミン酸……145

    第14章 エジプト王も悩んだ糖尿病――インスリン……157

    第15章 イエローマジック・抗生物質の誕生――ペニシリン……171

    第16章 眠りの神の贈り物――モルヒネ……183

    第17章 合成された高貴の紫色――アニリン……193

    第18章 鬼才カローザスの夢――絹からナイロンへ……209

    第19章 史上最強の発がん物質――アフラトキシン……221

    第20章 タケノコから植物ホルモン――ジベレリン……235

    第21章 生命の秘密――DNA二重らせん……247

    あとがきにかえて――「化」を「学」ぶ意味……263

    索引……293






    ■まえがき



     大学を卒業して何年かたったある日のこと、中学時代(現在の東京都立小石川高等学校) に化学を教えていただいた今は亡き関野幹次郎先生に道でばったりお会いしたことがあった。 いま何をしているのと尋ねられたので「化学の研究のようなことをしています」と答えたところ、 先生は目の玉が飛び出しそうな顔をされ、ややあってから、しわだらけになった顔中に笑みを 浮かべられて、「そうか、それはよかったね」とくり返し言われ、とても喜んでくださった。  当時の私は化学があまり好きではなかったので、先生をずいぶんと悩ませ、てこずらせたものだ。 そんな私が化学を専門に勉強していることを先生は心から喜んでくださったようであった。 先生は本当に一生懸命私に化学を教えてくださっていたことがわかって、そのときの私は 先生の笑顔がまぶしく、胸がいっぱいになるおもいだった。  私よりもずっと化学が好きで、試験の成績もよく、先生を喜ばせていたその頃の秀才たちに くらべると、いつも先生を困らせていた一人の生徒がまだ化学に食らいついてモタモタと 勉強をしている。このことを老先生は心から喜んでくださったのだろうと私は思った。  かつて化学が好きでなかった私の乏しい経験から言うと、化学が面白くなるということは、 いろいろな化合物の一つ一つと触れ合い、分析したり、反応したり、合成したりしていく間に、 仲良くなる化合物の種類も数も増え、その素姓もだんだんにわかってきて親しみがわき 「おっ、これはうまくいくかも……」というところから始まる。 標本箱の中のコレクションが増えていくのと同時に、蝶々たちが好きになるのと全く同じだ。 大化学者も生まれながらの大化学者ではなかったし、はじめから化学が好きだったという人 ばかりではなかったはずだ。  それにしても、折々に咲く草花や夜空の星にはあれだけのロマンが語られているのに、 どうして私の化合物たちは堅苦しく、冷たく扱われるのだろう。「花の文化史」とか 「昆虫の宇宙史」、「魚の履歴書」、「星の伝説」などという本はたくさんあるけれども、 化合物を主人公にしたこういう本は読んだことがない。化合物たちには本当に若者たちの心を ひきつけるようなロマンは無いのか。  そこで、私は哀れな化合物たちの素姓をもう少し親身になって調べてみたいと思いついた。 といって、莫大な数の化合物――ここでは有機化合物を対象としているが――の中から 代表選手を選び出すのは、オリンピック予選よりも難しい。したがって、この本に登場する いくつかの化合物はバラバラでそれぞれに何の代表権も持っていない。  強いて言えば、有機化学の教科書に記載されている各章、例えば炭化水素、 アルコール、ケトン、アルデビド、酸……などから、できるだけ依怙贔屓なく一つずつ 化合物たちに登場してもらった。それにつれて、少しばかり有機化学上のとりきめのような ことにも触れさせてもらった。そうでないと、せっかくこの本に登場する化合物たちが 単なるエピソードの持ち主で終わってしまい、実は有機化学という大舞台の上でも立派な 名優であるということがわかってもらえないのではないかと心配したからである。  原稿を読んでくれた人たちは、化学構造式を入れたら若い人たちははじめから読んで くれませんよとか、いきなり共鳴の話とかパウリの排他原理とかの話を持ち出すのは無理ですよ とか、親切な意見をいろいろと言ってくれた。私もそれはその通りだと思った。  しかし、前にも述べたように、化学の面白さに気づくのが遅かった私の体験的反省に もとづくと、親切ぶって構造式(いわゆる「カメノコ」)を省略したり、法則や理論のことを 抜いてしまった有機化学は、かえって気の抜けたサイダーのようでおいしくない。 まるで、ルールも作戦もない野球をやっているみたいなものである。野球だって、 ただボールを投げられるとか、バットが振りまわせるというだけでは プレーを楽しむことはできない。しっかりとルールを覚え、戦術を身につけてこそ はじめて名プレーヤーになれる道理だ。  ひと昔まえまで、人々はいろいろな生物現象――例えば花が咲いたり実がなったり―― を化学的な現象として理解するなど、とても不可能なことのように考えていた。 人々はそれらの現象を表面的にとらえることで精いっぱいであった。ところが、 有機化学の進歩は、そういう一つ一つの現象を、その内側で働く生物活性物質のレベルで とらえ、それらを詳細に分析することによって見事に解析できるようになった。  この本ではメタンをまず取り上げ、メタンから誕生した生命がこの地球上に様々な 化合物を作り出し、私たちの生活はそれらの化合物に囲まれて存在するということを 書いたつもりである。中頃に登場するプロスタグランジンやインスリンは私たちの体内で 重要な働きをしている化合物であるし、アスピリンはそのプロスタグランジンの作用に 影響を及ぼす化合物であることがわかった。私たちの食物、衣料、それを美しく彩る染料なども、 みなそれぞれの歴史の中から生まれてきた。いまや、タンパク質や核酸についての研究の進展は、 生命や遺伝の神秘を解明する鍵を私たちに与えてくれたとも言うことができるだろう。  私たちの生命を支え、喜びや悲しみを謳うのに役立っている化合物の数はいま数千万にも のぼるだろう。それらの化合物をさらに自然の中から探り出し、分離し、分析し、 合成する有機化学はいまも目覚しい展開を遂げつつあり、遂には生命そのものの合成にさえ 迫ろうとしている。新しい時代の新しい有機化学は、さらに数多くの大切な化合物の存在を 私たちに教え、私たちにとってますます身近でなくてはならないものとなるだろう。  ある図書館の書棚の一隅から、すでに二〇年も昔に書いた私の本を探しだして、 もう一度本にして出版しようと強く勧めてくれたのは松尾義之さんだ。松尾さんは、 かつて日経サイエンスの編集部で活躍しておられた頃に仕事をご一緒した仲であったが、 いまは白日社でユニークな図書の編集出版をしておられる。松尾さんとの会話はいつも 有益で、そもそも「化学」とはいかなる学問なのかという難問を突きつけられたりしながら 結構楽しい時間を過ごし、本書の内容についてもいろいろなアドバイスをいただいた。 心から感謝したい。  本書では昔の本の文章に若干の加筆訂正を行ったほかに、新しい三章と、 あとがきにかえて――「化」を「学」ぶ意味、を加えたが、内容そのものについては、 原型をできるだけ残したほうがよいという松尾さんの意見にしたがって、 ほとんど変えていない。 本書を通して化学や化合物のロマンの一端を感じていただければ幸いである  2005年2月                      山崎幹夫

    あとがき



    あとがきにかえて――「化」を「学」ぶ意味

    ●本文は長文であり、また珠玉の内容であるため、ネットでの公開はやめさせていただきます。
    ぜひ、ご購入の上、お読みください。●

     2005年2月                      山崎幹夫






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